恵子はカウンターに置いてあるスプレーで手を消毒した後、店員に検温してもらうために手首をさし出す。
「ごゆっくりどうぞ」
いつもの明るい声を聞きながら女風呂の暖簾をくぐる。
恵子は鍵が沢山付いているロッカーの列を選ぶ。
使っていないロッカーが多い場所の方が人が少ないと思うからだ。

お風呂から出て自分のロッカーへ向かう。
刹那濡れた体の女が寄って来て恵子のすぐ下のロッカーに鍵を差し込む。
他にも沢山ロッカーは空いているのに寄りによって重なる。（またか）と恵子は一瞬ムッとしたが
「寄りによってどうして重なるのかしらね、他にもロッカーは沢山空いてるのに」と笑ってしまった。
「よくありますよね」
女の返事に驚く。
自分だけじゃなかった。みんな同じようなこと思ってたんだ。

あの日以来ロッカーが重なることが少なくなった。
恵子はこれまでにロッカーが重なったのは何回あったのか数えてみる。4.5回がいいところだろうか。
嫌なことは印象に残り（またか）と思っていた自分がおかしかった。

今日も重ならない。のんびりとゆっくり過ごす。

今度重なったらきっとまた笑ってしまうだろうと恵子は思う。