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ブログ|2020.08.05

出会う人とすれ違う人 ~池袋~ スキ 4 岡田 操

恵子は遅い朝食と兼用の昼食を簡単に済ませジャケットに袖を通した。

 

(今日もどうせ駄目だろうな)と思いながらもやっと取り付けた面接にわずかな期待を寄せていた。

ジャケットと同じ色のパンプスに足を入れ小さな玄関の扉を開ける。

 

『ボムッ』この部屋に決めた理由のひとつでもある扉の閉まる音を確かめて鍵をかける。

 

『コツコツコツ』心地のいい自分の足音聞きながら背筋を伸ばしいい女風に大股で駅へ急ぐ。

 

 平日の昼間だというのに湘南新宿ラインの車内は混み合っていた。

スマホでグーグルマップを立ち上げる。

目的の会社はすぐに見つかった。

昨夜から何度も確認しているのだからあたりまえだ。

 

 池袋東口。

 

恵子はまだ池袋で降りたことがなかったが間もなくビルは見つかった。

面接時間の5分前を待ちビルの中へ入る。

一回りは年下だろう若い男の面接官が不躾な質問を繰り返す。

恵子は顔色ひとつ変えず謙虚に答える。

いつものことだ。

 

(また駄目だな)

 

 「また連絡します。」若い男はその気もないのに言う。

 

 来た道を池袋東口へと戻る。

 

『コツコツコツ』もう背筋は伸ばさない。

 

暗くなるまでにはまだ時間がある。折角東京の池袋まで来たのだからおしゃれなカフェにでも寄りたいところだが恵子にはそんな贅沢は出来ない。

大抵の駅前にはありそうなマクドナルドを探す。

 

そういえば今日は朝からすごい風が吹いていた。

 

 池袋北口。

 

恵子はその日から毎日通うことになる。

 

 マクドナルドの100円コーヒーを探していた恵子は10は年上だろうか、きれいな顔立ちの品のいい女にお茶に誘われるままついていった。

東京に来てから7か月、誰かとお茶などしたことがなかった。

女はどこかに電話をしていたが今更恵子に怖いものはない。

 

 女に、どこへ行くつもりだったのかと聞かれ、

(100円マック)

とは言えずお茶でもしようと思っていたと答えた恵子を女は誘ったのだ。

 

温かいお茶と人の優しさに戸惑いすら覚えた奇跡の出会いだった。

 

師走も近い12月の風の強い日。

 

 東京には驚くほどの人がいて沢山の人とすれ違う。

恵子は最近よく口ずさむ。

 

♪誰もが、愛する人の前を、気付かずに、通り過ぎていく♪

 

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